【虫歯を放っておくと、ガンになる…!?】
2025年04月17日(木)
コラム
治療中の患者さまから「虫歯を放っておくとがんになるって本当ですか?」とご質問いただきました。
今回は「虫歯を放っておくとどうなるのか?」「口腔がんとの関係性」についても深掘りしていきます!
虫歯の放置と口腔がんの関係性
最後に歯医者さんへ行ったのはいつですか?
「ちょっとしみるけど、まあ我慢できるし…」
「忙しいから、今度の休みに行こうかな…」
そんなふうに虫歯を放置している方、実はとっても危険です!
「え〜?虫歯で死ぬことなんてないでしょう?」
「歯が痛いだけで、がんになるわけないよね?」
そう思っていらっしゃいませんか?
実は、虫歯や歯周病を放置することで、全身の健康に深刻な悪影響を及ぼすことがあります。
そして、最近の研究では【口腔内のトラブルががんのリスクを高める可能性】まで指摘されるようになってきました。
虫歯はただの歯の病気じゃない!
虫歯の進行メカニズム
虫歯は単純に「歯に穴があく病気」と思われがちですが、その仕組みは意外と複雑です。口の中には常在菌が存在し、食べ物の糖を分解して酸を出します。この酸が歯の表面(エナメル質)を溶かしていくことで、虫歯が始まります。
初期段階では痛みもなく、違和感すら感じない人がほとんど。しかし、歯の内部にある象牙質や神経(歯髄(しずい))まで進行すると、激しい痛みが現れます。それでも放置すると、神経が死んで痛みが消え、「治った?」と錯覚しがちですが、実は症状はどんどん悪化しているのです。
虫歯菌が歯の奥深くに達し、顎の骨や血管にまで入り込むと、「歯性感染症」として全身に影響を与えるようになります。
虫歯を放置するとどうなる?
まずは虫歯の進行とそれによる症状等を説明します。
健全歯
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エナメル質にも象牙質にも虫歯の罹患がない状態です。
C0(シー・ゼロ)
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初期う蝕とか「初期虫歯」と呼ばれる段階です。
表面だけ白く濁ったり茶色く変色しています(こちらの画像では白濁だとわかりにくいので黒くしています)。
C1(シー・イチ)
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初期段階の虫歯です。ただし「初期虫歯」とは呼びません。
虫歯の深さはエナメル質内か、わずかに象牙質に及んでいる場合があります。
自覚症状はほとんどありません。
C2(シー・ニ)
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虫歯の深さが象牙質まで及んでいる状態です。但し歯髄には達していません。
自覚症状がない場合もありますが、冷たいものでしみる「冷水痛」や、甘いものでしみる「甘味痛」、何もしない状態で痛みを起こしている「自発痛」と呼ばれる症状を起こしている場合もあります。
C3(シー・サン:生活歯)
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虫歯が歯髄に達しているか、歯髄に近接している状態です。
何もしない状態で痛みを起こしている「自発痛」と呼ばれる症状があります。
冷たいものでしみる「冷水痛」、温かいものでもしみる「温熱痛」もあります。
歯髄に起きている炎症が自然に治癒することはありません。
C3(シー・サン:失活歯)
虫歯が歯髄に達しているか、歯髄に近接している状態は同じです。
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自発痛と呼ばれる症状はなくなります。「痛みを我慢していたら痛くなくなった」という症状はこれに該当します。歯髄が失活することで起きる症状です。ただし、疲労している時など身体の抵抗力が落ちた時に「自発痛」「違和感」を起こすことがあります。
他の症状としては、「冷水痛」「温熱痛」はありません。
虫歯が進行して歯髄が失活したこの状態を「根尖性歯周炎」と呼びます。
C3(シー・サン:症状が進行した失活歯)
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さらに症状が進行すると、失活した歯髄組織の腐敗が進み、「根尖(こんせん)」と呼ばれる歯根部の先端に膿が溜まるようになります。(虫歯が進行した全ての歯で膿が溜まるわけではありません)
自発痛はある場合と無い場合があります。冷水痛と温熱痛はありません。
C4(シー・ヨン)
根尖に膿が有る無しに関わらず、さらに虫歯が進行した状態です。
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ここまで虫歯が進行すると、根尖に膿がない場合、ほとんどの場合は自発痛を始めとする諸症状はなくなります。
根尖に膿が有る場合、自発痛を起こしている場合もあり、顔が腫れることもあります。
当該歯牙のみで咀嚼を回復させることができないため、抜歯が必要になります。保存して治療が可能か否かは「健全な歯が骨縁上2mmあること」とされています。
虫歯が全身に与える影響
「口の中の問題は、口の中だけの問題じゃない」
これは近年、歯科医療の世界で強調される言葉です。
虫歯だけでなく歯周病の原因菌が、口の中の感染により血流を通じて血流に乗って体中を巡り全身に広がると、「菌血症」や「敗血症」など、命に関わる疾患へと発展することも無いとは言えません。
特に注意すべきは、次のようなケースです。
- 虫歯菌が血流に乗り心臓に到達 → 感染性心内膜炎
- 顎から副鼻腔、脳に菌が広がる → 脳膿瘍(のうのうよう)
- 抵抗力が落ちている高齢者 → 肺炎、敗血症
つまり、虫歯は《口の中の問題”だけでは終わらない》ということ。想像以上に全身へ波及する可能性がある、恐ろしい感染症の入口になり得るのです。
虫歯と全身疾患の関係
心筋梗塞・脳梗塞
虫歯菌や歯周病菌が血管内に入り血流に乗ると、全身を循環することになります。これらの口腔内細菌が血管の内壁を傷つけ、そこにコレステロールなどが蓄積して塊(かたまり)を形成し、動脈硬化を促進します。これが剥がれると血栓となり、心筋梗塞や脳梗塞の引き金となります。
また、すでに心疾患を持っている人が虫歯を放置すると、心臓の内膜に炎症が起きる「感染性心内膜炎」に発展する可能性があります。これは命に関わる深刻な状態です。また、歯及び口の中(口腔(こうくう))は脳に近いため、感染が脳に広がる「脳膿瘍(のうのうよう)」や「肺炎」「敗血症」を発症する可能性も否定できません。
糖尿病
糖尿病と歯周病は「相互に悪化させる関係」にあると言われています。
糖尿病の人は免疫力が低下しているため、間接的には(歯周病だけではなく)虫歯菌に対しても防御力が弱く、感染しやすくなります。一方、口腔内の炎症があると、体は「炎症反応」としてインスリンの働きを抑制するため、血糖値が上がりやすくなるのです。
まさに“悪循環”と言える状態。虫歯と歯周病を放っておくことは、糖尿病のコントロール不良を引き起こし、結果として合併症リスクを高めてしまいます
誤嚥性肺炎
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食道と肺へつながる気管は、薄い膜を隔てて前後に並んでいます。前側に気管、後側に食道です。
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鼻や口から息を吸う時(吸気時)、空気は食道へは行かず気管に流れます。

飲食物が「嚥下(えんげ)」と呼ばれる動きで咽頭を通過する際、「喉頭蓋(こうとうがい)」と呼ばれる軟骨が気道の入口を塞ぎます。
嚥下の時に気道の入口を閉じることができない状態を「誤嚥(ごえん)」といいます。
それによって肺炎を起こすのが「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」です。
飲食物と一緒に歯の表面に付着している歯垢(しこう:細菌の塊で「プラーク」と言います)が剥がされて誤嚥した場合、歯垢が気管に入り込んでしまう可能性は否定できません。
虫歯とガン(悪性腫瘍)の関係
口腔がんと虫歯の関係
虫歯そのものが直接「ガン」になるわけではないですし、「ガン」を引き起こすわけではありません。
ただし長期間放置された虫歯や歯周病の炎症が、口の中の粘膜に慢性的な刺激を与えることで、「口腔がん」の発生リスクを高める可能性があると指摘されています。
特に、虫歯の進行で歯が鋭くなり、舌や頬の粘膜を常に傷つけている状態が続くと、細胞の変異が起こりやすくなります。慢性的な粘膜損傷が「前がん病変(ガンの前段階)」に移行するケースもあります。
●慢性炎症がガンを引き起こす可能性
虫歯や歯周病を放置すると、慢性的な炎症が続きます。
この「慢性炎症」が、ガン細胞の発生や増殖に関わると考えられています。
医学的には「慢性炎症がガンを誘発する」ということが、広く知られています。虫歯によって生じる炎症は、慢性的かつ局所的に続くため、DNAの損傷を招き、細胞ががん化するリスクを増加させます。
これは口腔がんだけでなく、以下のような全身のガンにも影響を与えるとされています。
- 胃がん
- 食道がん
- 肝臓がん
- 大腸がん
虫歯が直接ガンを「引き起こす」とは断言できませんが、間接的にリスクを高める要因となるのは間違いありません。
口の中でも同じように、炎症が慢性化すると、口腔がん、食道がん、膵臓がんなどのリスクが高まる可能性があるという報告があります。
歯周病菌とがんの関係
特に「ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)」という歯周病菌は、ガン細胞の増殖を助けたり、免疫細胞の働きを抑える作用があるとも。
実際、膵臓がん患者の多くからこの菌が見つかっているという研究もあります。
「歯が痛い」だけじゃ済まない、という事実
虫歯は「放っておいても治らない」病気です。
自然に良くなることはなく、進行すればするほど治療も大変に。
そして、口の中のトラブルがやがて全身の病気へとつながっていく。
この連鎖を防ぐためには、「早期発見・早期治療」しかありません。
まとめ《虫歯とガン、その意外な関係》
虫歯そのもの(歯周病も同様ですが)が直接「ガン」になるわけではないですし、「ガン」を引き起こすわけではありません。
但し、虫歯や歯周病の進行による慢性的な炎症(虫歯が進行すると歯髄炎、歯周病による歯周炎)や細菌感染が、それらを放置することで将来的にガンのリスクを高める可能性も否定できません。
「ちょっと痛いだけだから大丈夫」と思わず、
今すぐにでも歯医者さんを予約することをおすすめします!