「オーラルフレイル」とは?健康寿命を左右する口の老化現象
2025年07月29日(火)
コラム
オーラルフレイルの定義と重要性

オーラルフレイルの定義とは?
《オーラルフレイル》という言葉を聞いたことがありますか?
これは「口腔機能が虚弱化」していくことを意味する言葉で、厚生労働省や日本歯科医師会も警鐘を鳴らしている概念です。
年齢を重ねるごとに、いつの間にか口の中の筋力や動きが衰えていく現象を指し、単なる「老化」と片付けられてしまうかもしれませんが、放っておくと全身の健康にも大きく関わってくる状態です。
今までよりも自然に噛めない・飲み込めない・会話の途中で滑舌が悪くなるといった変化は、オーラルフレイルの初期サインかもしれません。単に「歯が抜けた」「義歯が合わない」といった表面的な問題ではなく、「口腔機能全体の衰え」として考えることが大切です。
この概念が注目されるようになったのは比較的最近で、フレイル(虚弱)という言葉とともに2010年頃より注目を集めています。
オーラルフレイルは「健康寿命の延伸」に直結し、人生100年時代を生き抜くために多くの人が座視できない問題となっています。
なぜオーラルフレイルが問題なのか
オーラルフレイルにより、生きていく上で不可欠な「食べる」のが困難なことで健康を害す可能性があります。そして「話す」ことに躊躇が生まれることで、他人とのコミュニケーションに支障をきたし社会的孤立につながることも考えられることが問題と捉まえています。
口の機能が衰えると「食べる」「飲み込む」「話す」等の生きていく上での基本的な行動が困難になっていきます。
まず「食べる」「飲み込む」ことが困難になると、それらが原因となり食事量が減ります。そして栄養不足や体力低下の原因につながっていきます。
「食べる」「飲み込む」ことで使用する筋肉と、「話す」ことで使用する筋肉はほぼ同じです。そのため「話す」ことも連動して問題となっていきます。
具体的には「滑舌が悪くなる」ことで相手が話した内容をきちんと聞き取ってもらえなくなります。それが続くことで「話す」ことが億劫になり、友人知人とのコミュニケーションが面倒になったり疎かになる可能性が考えられます。
コミュニケーションが面倒だったり疎かになることで外出する機会も減り、口腔機能だけではなく、身体全体の体力低下にもつながります。
体力が低下することにより外出する機会も減り、同時に人と話す機会が減ることにより筋肉の機能が衰えることに拍車がかかる可能性は否定できません。
このようにオーラルフレイルは放置することで全身のフレイル(虚弱)につながりやすく、要介護状態に直結するリスクがあるのです。単に歯の問題だけでなく、人生の質そのものを左右する重大な健康課題といえます。
STEPオーラルフレイルが及ぼす健康への影響
全身のフレイルとの関係性
「Step1」でも触れましたが、オーラルフレイルは全身の身体的フレイル(筋力や体力の低下)はもちろんのこと、認知的フレイル(記憶力や判断力の低下)と密接につながっています。なぜなら「食べること」「話すこと」「飲み込むこと」がスムーズに行えなくなると、身体全体の活動量や栄養摂取が低下し、結果として他の機能まで弱ってしまうからです。
厚労省のデータでも、「オーラルフレイルが進行すると、フレイルやサルコペニア(筋肉量の減少)といった症状に発展しやすくなる」とされています。つまり、オーラルフレイルを予防・改善することは、全身の健康維持の第一歩とも言えるのです。
口腔機能が低下すると、咀嚼や嚥下の力が弱まり、軟らかいものばかりを食べるようになります。その結果、食事バランスが崩れ、栄養不足から筋肉量が減り、転倒しやすくなるという悪循環に陥ることも少なくありません。口の老化が全身の老化を加速させる…そんな現実が、オーラルフレイルには潜んでいます。
誤嚥性肺炎や認知症との関係
さらに深刻なのが、誤嚥性肺炎や認知症との関係性です。オーラルフレイルが進行すると、食べ物や飲み物がうまく飲み込めなくなり、誤って気管に入ってしまうことがあります。これが「誤嚥(ごえん)」です。誤嚥が慢性的に起きると、細菌が肺に入り込み「誤嚥性肺炎」と呼ばれる病気を引き起こします。
高齢者の死亡原因の上位にある誤嚥性肺炎は、まさにオーラルフレイルの延長線上にある病気と言えるでしょう。また、口腔機能の低下は、脳への刺激不足や社会的孤立も招き、認知症のリスクを高めるとも指摘されています。
口の衰えが、肺や脳といった重要な臓器にまで影響を及ぼすというのは、ちょっと驚きかもしれません。でもそれが現実であり、多くの医療機関や研究者が訴えている事実です。だからこそ、「口の健康」は全身の健康に直結しているといえるのです。
STEPオーラルフレイルの主な症状と初期サイン

噛む力の低下
最もわかりやすいオーラルフレイルのサインのひとつが「噛む力の低下」です。以前は平気で食べられた肉や煎餅が「固くて食べづらい」と感じるようになったり、食べ物をよく噛まずに飲み込んでしまうようになった場合、それは口腔機能の衰えを示すサインかもしれません。
噛む力が落ちると、消化にも負担がかかりますし、何より食事が楽しくなくなってきます。これは心理的な影響も大きく、食欲の低下や孤食(ひとりで食べる習慣)につながる可能性も。食事の時間が「楽しみ」から「苦痛」に変わると、栄養の偏りや精神的な落ち込みにもつながっていきます。
また、噛むことで脳に刺激が伝わり、記憶力の維持や集中力の向上にも役立つとされています。つまり、「よく噛む」ことは脳トレにもなっているわけです。噛む力が弱まることで、脳への刺激も減少してしまうというのは、実は見逃せないポイントです。
食事中の「むせ」
食事中にむせる・喉に引っ掛かる感じがする・飲み物が喉を通りにくい等の症状は、嚥下機能の低下を示す重要なサインです。むせると言うことは、飲み込む過程で気道への誤嚥が起きている可能性もあり、「誤嚥性肺炎」のリスクがあります。
滑舌の悪化・声のかすれ
滑舌の悪化や声のかすれも、オーラルフレイルの代表的な初期サインです。「最近うまく話せない」「声が小さくて聞き返されることが増えた」と感じたら要注意です。これは、舌や唇・声帯といった発音に関わる筋肉が衰えてきている可能性があります。
特に舌の動きが鈍くなると、サ行やタ行が発音しづらくなります。
会話がスムーズにできないことへのストレスや、「聞き返されるのが恥ずかしい」と感じて話すのを控えるようになることも。その結果、会話の機会が減り、社会的な孤立を招くこともあります。
さらに、声帯の筋肉が衰えることで、声がかすれたり、長時間話すのがつらくなったりします。これもオーラルフレイルの一環であり、気づかぬうちに進行してしまうケースが多いです。滑舌や声の変化を単なる「年のせい」と片付けず、早めの対応が求められます。
声を出す機会を意識的に作ったり、口の体操を日課にすることで、こうした衰えを遅らせることは十分可能です。とくに高齢者にとっては「声を出す=健康維持」と言っても過言ではありません。
食欲低下や体重減少
口の機能が衰えると、直接的に「食欲の低下」や「体重の減少」につながることが多いです。噛むのがつらくなったり、食べ物の味が感じづらくなったりすると、食事が億劫になります。「最近あまり食べたくない」「食べてもすぐにお腹いっぱいになる」そんな変化は、オーラルフレイルのせいかもしれません。
加齢とともに味覚や嗅覚が鈍くなることもあり、これも食欲を奪う要因になります。特にタンパク質やビタミンなどの摂取量が減ると、筋肉量が落ちてサルコペニア(筋肉の衰え)を引き起こしやすくなります。
食欲が落ちると食事量が減り、栄養が不足します。栄養不足は免疫力の低下や疲労感の増加を招き、さらに活動量が減少します。このようにして、オーラルフレイルは「負の連鎖」を引き起こす原因になるのです。
また体重の急激な減少は、健康リスクの警告サインです。1ヶ月で2~3kg以上減った場合は、必ず医師や歯科医に相談することが重要です。体の変化に敏感になり、早期対応することが健康維持には不可欠です。
STEPオーラルフレイルの原因
加齢による口腔機能の衰え
オーラルフレイルの最大の原因は、やはり「加齢による自然な衰え」です。
人間の筋肉は20代をピークに徐々に減っていきますが、口腔内の筋肉も例外ではありません。
特に舌や頬の筋肉、唇まわりの筋肉は衰えやすく、知らず知らずのうちに口の動きが鈍くなっていきます。
また、唾液の分泌量も年齢とともに減少します。
唾液は食べ物をスムーズに飲み込むための潤滑油のようなもので、分泌量が減ると飲み込みづらくなり、誤嚥のリスクも高まります。
歯の喪失も大きな要因です。
歯が抜けたままにしておくと噛み合わせが悪くなり、咀嚼力が低下します。また、義歯が合わないまま放置するのもトラブルの原因になります。こうした「口腔内の環境の変化」が複数重なることで、オーラルフレイルは徐々に進行していくのです。
だからこそ、加齢に応じた口腔ケアやリハビリ、歯科の定期健診が非常に大切です。「年を取ったから仕方ない」ではなく、「老化を遅らせる努力」が必要です。
生活習慣や食習慣の影響
オーラルフレイルは加齢だけが原因ではありません。
実は「日々の生活習慣や食習慣」も大きく影響しているのです。
早食いやあまり噛まずに飲み込む習慣がある人は要注意です。
噛むことが減れば舌や頬の筋肉を使う機会も減り、衰えやすくなります。食事は単に「栄養を摂るための行為」ではなく、「口を動かすリハビリ」でもあるのです(もちろん他にもあります)。
さらに睡眠不足やストレス、口呼吸の習慣もオーラルフレイルのリスク要因です。
特に口呼吸は口の中が乾燥しやすくなり、唾液の働きが弱まるため、口腔環境が悪化しやすくなります。
このように、日々のちょっとした習慣が積み重なって、オーラルフレイルは進行していきます。だからこそ、日常生活を少し見直すだけでも、予防や改善の効果が期待できるのです。
「柔らかい食べ物ばかりでなく、固い・噛みごたえのあるものを」という説明について
歯医者に行った時に、次のような説明を受けたことはありますか?
「最近は柔らかい食べ物が多くなり、噛むごたえのある固い食べ物を噛まなくなったので歯並びは悪い人が増えています。それにより噛む力がどんどん低下しているので、固い物を食べるようにしましょう。」
実を言うと私はこの内容にかなりの疑問を持っています。
まず「噛みごたえのある食べ物」って何ですか?ということです。
スルメや干し芋のような乾物はそれに当てはまりますが、食事時のおかずになるようなものだと、正直思い当たらないです。
主食になる食材だと、フランスパンや玄米はそれに該当するかもしれませんが、これも調理の方法によっては当てはまらなくなります。
おかずになる物でも、そればかりを毎日食べるわけにもいきません。
繰り返しますが「早食いやあまり噛まずに飲み込む習慣」に問題があり、柔らかい物であっても「よく噛む」事が大切です。

自分でできるオーラルフレイル診断
オーラルフレイルはとても自覚しにくいものですが、以下の症状に1つでも当てはまるようであれば注意が必要です。
- 固いものが噛みにくくなった
- 飲食時にむせてしまう
- 飲み込みにくくなった
- 食事の量が減り、それに伴い体重が減ってきた
- 口が乾きやすい
- 口臭が気になるようになった
- 滑舌が悪くなった
- 声がかすれる
- 人と話すのが面倒に感じる
これらの症状が複数あるとオーラルフレイルの可能性が高いのですが、これらの中には服用中の薬による副作用で起きているものもあるので、見極めは必要です。
1つでも心当たりがあれば専門機関や歯医者に相談することをお勧めしますが、服用中の薬の申告は忘れないようにしましょう。
セルフチェックでわかること
セルフチェックを通じて「自分の今の状態を知る」ことはとても大事です。
オーラルフレイルは早期発見・早期対応が可能なため、歯の本数や舌の動き、食欲の変化など、日常のちょっとしたサインを見逃さないことが、重症化を防ぐ第一歩になります。
自分では気づきにくい問題も、チェックリストを通じて明確になることが多く、家族と一緒に行うのもおすすめです。「おじいちゃん、最近声が小さくなったね」「おばあちゃん、ご飯の量が減ったみたい」そんな気づきが、健康寿命を延ばすきっかけになるのです。
STEPオーラルフレイルを予防するための基本は「口の体操」
口腔機能を高めるトレーニング方法
オーラルフレイルを予防・改善するには、口の筋肉を意識的に使うトレーニングが不可欠です。ここで役立つのが毎日できる「口の体操」で、代表的なものが「パタカラ体操」や「あいうべ体操」です。これは、発声を使ったシンプルなエクササイズで、舌・頬・唇の動きを高めることができます。
『パタカラ体操』の具体的なエクササイズ
- 「パ」→ 唇をはじくように発音(口を閉じる力を鍛える)
- 「タ」→ 舌先を上顎につけて発音(舌の動きを鍛える)
- 「カ」→ のどの奥を使って発音(飲み込む力を鍛える)
- 「ラ」→ 舌を巻き上げるように発音(滑舌改善に効果)
『あいうべ体操』の具体的なエクササイズ
- 「あー」→ 口を大きく縦に開きます。喉の奥が見えるくらい大きく開けるのがポイント
- 「いー」→ 口角を横に思い切り、笑顔を作るように広げます
- 「うー」→ 口唇を前に突き出してすぼめます
- 「べー」→舌を思い切り前に突き出し、下に向かって顎の先を舐めるように伸ばします
どちらの運動も1日に数セット繰り返すだけで、口腔機能はかなり向上します。手軽にできるので、習慣化できたら、テレビを見ながら、散歩の途中で、入浴中など、どこでも取り組めます。
口の筋肉が活性化し、飲み込む力が強化され、誤嚥の予防にもつながります。滑舌の改善や声のボリュームアップにも効果的で、会話のストレスも減ることは間違いありません。
STEPオーラルフレイル対策のための食生活改善
とにかく「噛む」「飲み込む」力を鍛える事が大切です。
毎度の食事による「噛む(咀嚼)」「飲み込む(嚥下)」という動作を、オーラルフレイルのトレーニングと捉えて食事すれば、一般的に言われている「柔らかい物ばかりでなく、噛みごたえのある食材を」ということは考えなくても良いと考えています。
何故ならば、噛みごたえのある食材ばかりを選んで食事することは難しいですし、極端にそればかりを意識すると、日常の食事で歯を折ってしまうというリスクも生じます。
どのような食材であってもとにかく「よく噛む」ことと、慌てずに意識しながら「飲み込む(嚥下する)」ことを心がけましょう。
STEPまとめ
オーラルフレイルは、静かに進行する「口の老化現象」です。早期に気付いて対策をすれば、十分に予防と改善は可能です。食べる・話す・笑うといった日常の当たり前を守るためには、「噛む」「飲み込む」「話す」力を維持することがカギになります。
「口の体操を習慣にする」「よく噛んで食べる」「人と話す機会を意識的に増やす」ことを毎日の生活の中で取り入れることで、健康寿命は大きく変わってきます。
「オーラルフレイルは自分には関係ない」と思わず、まずは意識して生活してみましょう。
この意識を持つだけで、あなたの未来は変わります。
STEPよくある質問
Q1:オーラルフレイルと歯周病は違うのですか?
A1:はい、異なります。歯周病は細菌による歯ぐきの炎症ですが、オーラルフレイルは「口の機能の衰え」です。ただし、歯周病が進むと噛む力が弱まり、オーラルフレイルを引き起こすこともあります。
Q2:何歳くらいからオーラルフレイルは始まりますか?
A2:早い人では50代から兆候が出ることもあります。特に「噛む力」「滑舌」「飲み込み」が気になる場合は注意が必要です。
Q3:毎日できる予防法を教えてください?
A3:「パタカラ体操」「よく噛む」「人と話す」など、日常の中に組み込める方法が多くあります。とくに食事中の咀嚼を意識することが効果的です。
Q4:歯がなくても予防はできますか?
A4:もちろん可能です。義歯の調整や舌・口の筋肉を鍛える体操で、機能を維持・改善できます。歯科医院での定期的なフォローが鍵となります。