「えっ?まだ親知らずを抜いていなかったんですか!?」を繰り返し予定より時間がかかってしまった症例
2023年09月11日(月)
コラム
今回はインビザラインを使用した成人矯正治療のご紹介です。
えっ?まだ親知らずを抜いていなかったんですか?😳
を繰り返した為、予定よりも治療期間が長くなってしまった症例です。
【症例紹介】右上犬歯が埋伏したまま矯正治療した20代
初診の年齢が19歳2ヶ月の女性です。
上下前歯の乱杭歯(叢生)が気になるとのことで来院されました。
顎のスペースが足りず歯並びが凸凹になっていたり、重なりあって生えていたりする状態です。
見た目が悪いだけでなく、歯ブラシが届きにくいため虫歯や歯周病のリスクが高いといわれています。
顕著な叢生(乱杭歯)があります。
それに加えて一番の問題は上顎にあります。
犬歯がありません(破線丸印)。
また、前歯の中心は赤線にあるべきなのですが、犬歯がないので右側へずれています。
レントゲンで確認します。
犬歯はどこにあるでしょうか?
破線の赤丸で囲ったのが埋伏している犬歯です。
ここまで横に向いている状態だと、自然に生えてくることはありません。
ご相談の段階で、患者さまご希望の治療方法を聞き取りします。
具体的には、下記の内容になるかと思います。
- 部分矯正による治療で改善させたいか?全体を治療したいか?
- どのような装置で矯正治療を希望しているのか?
- 治療の予算はどれくらいで考えているのか?
- 抜歯をして治療をしても良いか?抜歯は希望していないか?
こちらの患者さまは、当初「インビザラインで治療したい」という希望のみで他はありませんでした。
埋伏している犬歯の問題もあるため、そのまま資料を収集し分析してから改めて説明を加えることとしました。
セファロレントゲンの側方画像です。
前歯がやや前突(出っ歯)の状態があります。
セファロレントゲン正面の画像です。
上顎の前歯がどれくらい右側へずれているかというと、
前歯が何処にあるかをわかりやすくトレースしてみました。赤線が左右の前歯です。数値的には4mmほど右側へずれています。
今回は埋伏している犬歯があるため、こちらの位置も確認した上で処置を決める必要があります。
埋伏犬歯に対しては、一般的に次のいずれかの処置になります。
- 積極的に抜歯(摘出)する。
- 歯の一部が口腔内に露出している(見えている)場合、矯正治療によりスペースを作り並べる。
- 積極的な処置は行わない。
埋伏している右上犬歯の位置を確認したいので大学病院へCT撮影を依頼したかったのですが、積極的な治療は希望していないとのことで、撮影依頼に応じていただけませんでした。
そのため、撮影済みのレントゲンで大まかな位置を確認するのみとなってしまいました。
正面と側方のセファロレントゲンではどのように写っているか確認です。
側方セファロレントゲンでは破線赤丸印の位置に見られます。
歯冠の方向を矢印で示しています。
正面セファロレントゲンではこの位置に見られます(赤丸矢印の位置、歯冠方向を矢印で表示)。
分析した上での治療計画は、
- 埋伏犬歯の位置をCT撮影して確認し、抜歯が可能であるか、このままでも問題がないことを確認する。
- ❶ の確認により埋伏犬歯が抜歯可能か、このままで矯正しても問題ない場合、左上第1小臼歯、下の左右第2小臼歯を抜歯する。
- ❶ の確認により埋伏犬歯が抜歯不可能な場合、小臼歯の抜歯はしない。
- 上記の ❷、❸ どちらの場合でも埋伏している親知らずは抜歯する。抜歯時期は術前が望ましいが、矯正治療途中でも問題ない。
- 治療装置は、小臼歯の抜歯が可能な ❷ の場合はワイヤー装置優先で、小臼歯の抜歯を行わない3.の場合はインビザラインも選択枝となる。
今回のご希望は「インビザラインで治療したい」という内容のみでした。
まず埋伏犬歯の位置を確認したいためCTを撮影したい旨をご説明しましたが、本人から撮影に対しての同意は得られませんでした。
理由は「抜くことになったら怖いから」とのこと。
親知らずを抜くのは理解できるが、今回の埋伏犬歯の場合は怖さがあるので避けたいとのことでした。
CT撮影により埋伏犬歯の位置を詳細に把握できて、埋伏位置が積極的に歯を動かしても問題ない位置であれば、出っ歯の改善も行いたいところですが、今回はそれができないため、その点については同意を得ました。
その内容を踏まえて以下の治療内容に変更しました。
- 装置は希望通りインビザラインで治療する。
- 右上以外の親知らずの抜歯(術前が望ましいが、治療と併行しての抜歯でも可)。
❸ 左上の埋伏している親知らずを抜歯することで生じるわずかなスペースを利用して歯を移動させ、正中のずれを改善させる。
❹ 出っ歯の治療は行わない。
❺ 正中のズレを改善させる治療で上顎はわずかな叢生は改善可能です。
iTeroを使用してお口の中をスキャンし、装置の製作を依頼します。
術前画像です。
術後の画像です。
治療期間は4年でした。
治療期間が4年になった理由
1.親知らずの抜歯がかなり遅くなった・それに加えて右下の抜歯は自己都合で未処置だった
治療計画を説明の時点で埋伏犬歯のCT撮影から希望されなかったことで、右上以外の親知らず抜歯を大学病院に依頼するため、早々に紹介状を本人にお渡しし、できるだけ早く病院へ行くよう説明とお願いをしました。
ところが、実際に左上の親知らずを抜歯したのは紹介状をお渡ししてから2年経過してからでした。
また、当初お願いしていなかった右上の親知らずは抜歯したのにも関わらず、右下の親知らずはついに抜歯しないまま矯正治療及び通院が終了となりました。
2.医院の指示する来院間隔が守られなかった
就職活動・サークル活動・アルバイトや卒業論文などを理由にこちらの指示通りの来院ではなく、自己都合での来院間隔になっていました。
3ヶ月以上間隔が空いていたこともあり、そのタイミングで必ず装置は適合不良となり、マウスピースの作り直し(追加アライナー)を余儀なくされました。
3.当院で指示したインビザラインの装着ルールが守られていなかった
親知らずの抜歯が遅れたことに加え、来院間隔だけでなく装着間隔も自己判断で交換していました。
2及び3の理由が重なり、マウスピースの作り直し(追加アライナー)は複数回に及びました。
全ての方ではないですが大学生の場合、アルバイトこそしているものの、治療費をご自身でお支払いされる場合は少数ではないかと推察しています。
そこがお仕事されている成人の方と大きく違う点で、通院に対する熱心さは薄くなる場合も見受けられます。
インビザラインの場合、こちらの指示通りの装着方法と、こちらの指示通りの通院間隔をお守りいただいた方の方が、早く綺麗に仕上がっている印象が強いです。