【症例紹介】混合歯列期に非抜歯で矯正治療を開始した10代女性
2023年07月23日(日)
コラム
初診時の年齢が8歳10ヶ月の女性です。
上の前歯が気になり来院されました。
混合歯列期に非抜歯で矯正治療を開始・10代女性
上顎ですが、左右中切歯が「正中離開」という状態です。
左右側切歯は生えるためのスペースが不足していて「近心捻転」という状態と噛み合わせが反対になっています。
左上の乳犬歯は抜けています。
一方で下顎はほぼ問題ありません。
この段階で、希望の治療方法を聞き取りするのですが、初診時の年齢が8歳11ヶ月なので保護者の方から聞き取りをします。
希望は1つで「歯を抜かない方法(非抜歯)で治療したい」とのことでした。
まだ生えていない永久歯がどのようになっているか気になります。
パノラマ撮影です。かなり心配な状態が認められます。
まず、上顎左右犬歯ですが、このままでは八重歯になって生えてきます。左上第1小臼歯はレントゲン上では斜めになっているため、このままだと生えて来ないかもしれません。
左右の第2乳臼歯も予想より早く生え変わってしまう可能性も考えられます。
分析した上での治療方針は、
- 上顎第1大臼歯の後方移動を一刻も早く開始する。
- 後方移動が間に合えば上顎は非抜歯による矯正治療。
- 下顎は非抜歯による矯正治療。但し、側方歯の交換が始まるまではこのまま経過観察。
今回、親御さんの希望は非抜歯による矯正治療が第1優先です。
そのためには、左右の第2乳臼歯が残っているうちに治療を開始する必要があることを伝え、型取りから最も装置が早くできる床装置で左右第1大臼歯を後方移動させることで同意を得ました。
今回選択した装置は着脱可能な床装置です。
固定源は、「床(しょう)」と呼ばれる青色のブラスチック(レジン)部分全体と乳歯に製作した「クラスプ」と呼ばれる金具です。
緑色の丸印にスクリューが埋め込まれていて、スクリューを動かすことにより左右の第1大臼歯を後方へ移動させます。
2ヶ月後の画像です。
スクリューが拡がっている様子が伺えるのと、左上の第1入臼歯が抜けて永久歯が生えてきました。
乳歯が抜けたためか、初診時のレントゲン撮影で見られた極端な近心傾斜は改善された状態で生えてきているように思います。
スクリューは全体の1/3~1/2弱の量を回転させて第1大臼歯を後方移動させました。もう少し移動させたいところですが、ここから先はあまり動かない可能性もあるため、後方移動はここで終了とし、この位置で第1大臼歯を固定させます。
「ホールディングアーチ」と呼ばれる装置です。
生えてきた第1小臼歯を出来るだけ後方へ移動させ、左上犬歯の生えてくるスペースを作ります。
治療開始から4ヶ月後になります。
さらにその2ヶ月後(治療開始から6ヶ月後)、左上犬歯が生え始めました(緑の丸印)。このタイミングで永久歯のみに部分的にブラケットを装着しました(部分的に装着するブラケットを「セクショナルアーチ」と専門的に呼びます)。
ワイヤーを装着開始して3ヶ月経過しました。乳歯(緑の丸印)があと3歯残っています。
ワイヤーを装着開始して1年経過しました。ようやく最後の乳歯が抜けました。
最後の乳歯が抜けてから3ヶ月後、第2大臼歯を除く全ての歯にブラケットを装着、ワイヤー装置が入りました。(治療開始して1年9ヶ月)
ここから先は、ワイヤーを1段階ずつ太いサイズへ交換して歯並びを綺麗にしていきつつつ、第2大臼歯が生えてくるのを待ちます。
今回、下顎はほとんど問題ない状態でしたが、上顎に併せてワイヤーを装着して綺麗にしました。
いかがでしたか?
治療期間ですが、5年かかりました。
治療開始時は乳歯が残っている混合歯列期と呼ばれる時期であったこと、第2大臼歯が生えるのを待ちながら歯並びを綺麗にしたことが、長期間になった要因です。
初診時に何もせず「様子を見ましょう」と言って経過観察のみしていた場合は、このような非抜歯による治療結果にはならなかったと思います。
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