スポーツマウスガード完全ガイド(1)
2025年08月20日(水)
コラム
スポーツマウスガードの概要
1.定義
スポーツマウスガードとは、運動中に歯や口の中の外傷や裂傷などを保護するために装着する保護器具です。
柔らかい樹脂やシリコン素材でできており、口内の衝撃を和らげることで、歯の破損・口唇や頬粘膜の裂傷、さらには顎や頭部へのダメージを軽減します。
一般的には上顎に装着するタイプが主流で、スポーツ時の衝突や転倒などによるケガのリスクを大幅に下げることができます。
例えばボクシングやラグビーのようなコンタクトスポーツ、柔道や空手等の武道、バスケットボールやホッケー、スケートボード、多くの競技で活用されています。
歯科医やスポーツトレーナーが推奨する安全対策の一つとして、近年ますます注目されるようになっています。
2.スポーツマウスガードを装着する目的
マウスガードは、主に次の目的で利用されています。
- 激しい接触・衝突・転倒が想定される競技
- 噛み合わせが安定することによるパフォーマンス向上を目的とする競技
3.スポーツマウスガードを利用している主だった競技
- 格闘技系:ボクシング・キックボクシング・総合格闘技(MMA)・柔道・空手
- 球技系:ラグビー・アメリカンフットボール・ホッケー・アイスホッケー・バスケットボール・ラクロス・ポロ
- その他:スケートボード・スノーボード・自転車競技全般・野球
これらの競技では、偶発的なパンチや肘打ち、衝突や転倒による歯の外傷や口の中の粘膜外傷が頻発します。
スポーツマウスガードを装着することで、歯の破折・脱臼(抜けてしまう状態のこと)・口腔内粘膜の裂傷を防ぐ事が可能です。
他方で、それだけでなく噛み合わせが安定することでパフォーマンス向上にも繋がると言われていて、その目的で装着しているケースも多く見られます。
4.スポーツマウスガード装着により期待できる効果
スポーツマウスガードを装着することにより、以下の効果を期待できます。
(1)歯の破折や脱臼等の損傷を予防
衝突や転倒による衝撃で歯が破折したり、歯が抜け落ちてしまう「脱臼(だっきゅう)」と呼ばれる状態をある程度予防できます。
(2)顎や舌の保護
衝突や転倒による衝撃で、舌や頬の粘膜を噛んでしまうことで起きる咬傷や裂傷を防止できます。
(3)治療費の削減が可能
衝突や転倒による衝撃で発症する、いわゆる「スポーツ外傷」による治療費が高額にならないようにする効果も期待できます。
(4)長期的な口腔内の健康維持
1度損傷した歯は元に戻らないため、予防がとても重要になってきます。特に子どもや成長期の学生アスリートは、全身の骨格が成長発達しているのと同時に顎顔面や歯自体も成長発育しています。特にこの時期の歯の損傷はその時期だけでなく、生涯のわたり治療が必要になると言っても過言ではないため、スポーツマウスガードを装着することは必須とも言える対策です。
これらは、主に衝突や転倒による衝撃、球技でボールが顔面や口の周囲に直撃することによる症状の予防が主ですが、当たり方や衝撃の度合いによっては完全に予防しきれない場合も考えられることも合わせて付け加えておきます。
STEPスポーツマウスガードの重要性
「Step1」でも一部記述しましたが、ここではあらためてその重要性について申し述べます。
1.歯の損傷や外傷の予防
スポーツ中の衝撃による歯の破損や欠損は、想像以上に多く発生しています。
ある調査では、接触スポーツに参加するアスリートのうちマウスガードを着けていない場合、歯の損傷リスクが60%以上高まることが報告されています。
前歯の破折や永久歯の脱落は、見た目や咀嚼機能に大きな影響を及ぼすだけでなく、歯科治療に長期間と多額の費用が必要になります。
スポーツマウスガードは、これらのリスクを最小限に抑える、いわば「最前線の防御装備」です。特に、ラグビーやアメフトのようにタックルが頻発するスポーツでは、マウスガードを着けていないと前歯を一瞬で失う危険があります。
2.顎関節や周囲の舌を含む筋肉・顎骨等、口周りの保護
スポーツ中にパンチや肘打ち、転倒、対人や対物の接触や衝突による衝撃、ボールの直撃を受けると、顎骨や顎関節に強い負担がかかり、筋肉や顎関節の損傷、顎骨の骨折を起こす可能性があります。マウスガードを使用することで、衝撃を分散し、それらを防ぐ効果が期待できます。さらに、舌の咬傷や頬の内側粘膜の裂傷も防ぎ、口腔内全体を安全に守ります。
3.脳震盪(のうしんとう)のリスク軽減
近年の研究では、マウスガードが衝撃を吸収することで、脳震盪のリスクを軽減する可能性があるとされています。顎に強い衝撃が加わると、その振動が頭蓋骨を通じて脳に伝わり、脳震盪を引き起こすことがあります。マウスガードは、噛み合わせ部分をクッションのように機能させることで、この衝撃を和らげ、頭部へのダメージを減少させます。
STEPスポーツマウスガードの種類
スポーツマウスガードには、次の3つの種類があります。
- (1)ストックタイプ(既製品)
- (2)マウスボイルタイプ(熱成型タイプ)
- (3)カスタムメイド(歯科医院で製作するタイプ)
(1)ストックタイプ(既製品)
ストックタイプは、ドラッグストアやスポーツ用品店で購入できる既製品のマウスガードです。あらかじめ成型されており、すぐに使用できる点がメリットです。しかし、個々の口の形に完全にはフィットしないため、ズレやすく、しゃべりづらい、息苦しいといったデメリットがあります。

既製品の一例
(2)マウスボイルタイプ(熱成型タイプ)
熱湯で柔らかくした後、歯に合わせて噛むことで自分の口にある程度フィットさせるタイプです。ストックタイプよりも密着度が高く、スポーツ中でも外れにくいのが特徴です。
価格も比較的手頃で、多くのアスリートが使用しています。ただし、完全オーダーメイドほどの精度はなく、長時間使用すると変形する場合があります。

熱成形型の一例

熱成形型の一例
熱で歯型に合わせた状態
(3)カスタムメイド(歯科医院で製作するタイプ)
最も安全で快適なのが歯科医院で作るカスタムメイドタイプです。歯型を取り、専用のマシンで作製するため、フィット感が抜群です。呼吸や会話もスムーズで、しっかりとした衝撃吸収力を発揮します。価格は高めですが、競技レベルが高いアスリートや長期的な使用を考える場合には最適な選択です。

カスタムメイドの一例
色を数種類の中からお選びいただくことも可能です。
スポーツマウスガードの構造と素材
(1)構造
スポーツマウスガードには、既製品・熱成型のどちらのタイプであっても一層構造と二層構造の製品があります。
「<Step3>(1)」の見本画像の製品は一層構造、「<Step3>(2)」の見本画像は二層構造の製品になります。
一層構造の製品はシンプルで軽量ですが、衝撃吸収力がやや劣ると言われています。それに対して二層構造の製品は内側の層が柔らかい素材で作られており、強い衝撃にも耐えられる構造になっているようです。特に衝撃が大きい競技(格闘技やアメリカンフットボール等)では二層タイプが推奨されているとのことです。
(2)素材
スポーツマウスガードはEVA(エチレン・ビニル・アセテート)という樹脂で作られます。
以下のような特徴があります。
- 弾力性が高く、衝撃を効率的に吸収
- 加熱成形がしやすく、歯型に正確にフィット
- 軽量で耐久性があり、口腔内での装着感が快適
- 医療用として広く使われる素材で、口腔内に安全
- 無臭でアレルギー反応が出にくい
歯科医院で製作するカスタムタイプの特徴
(1)多層構造での製作も可能
歯科医院で製作するカスタムタイプのマウスガードは、二層構造はもちろんのこと、三層以上の多層構造にすることも可能です。
・外層:硬めのEVA → 衝撃耐性を強化
・内装:柔らかめのEVA → 歯や歯肉へのフィット感を向上させる
・追加素材:TPU(熱可塑性ポリウレタン)やナイロン補強財 → 高強度タイプや特定スポーツ用に使用
(2)厚みとデザインの調整
厚みは競技に合わせて調整します。2mmから5mm程度が一般的で、例えばボクシングやアメリカンフットボールは厚め、バスケットボールやアイスホッケーは薄めに製作します。
(3)市販品との違い
市販品の多くもEVA素材ですが、カスタムタイプと比較すると耐久性が低いです。
また市販品との決定的な違いは適合性です。歯型に完全フィットさせるように製作するため、快適性が圧倒的に違います、これは真空成型機や加圧成型機と呼ばれる専用の製作機器を使用するためで、どんなに高価な市販品でもこれにはかないません。
スポーツマウスガード完全ガイド(2)に続きます