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【症例紹介】ムーシールドで反対咬合を改善後、ワイヤー矯正で治療した10代女性の症例(1)

先生

今回はムーシールドで反対咬合を改善した後、ワイヤー矯正で治療した10代女性の症例紹介(その1)です

初診時の年齢が6歳4ヶ月の女性です。
奥歯で噛んでいるのに前歯が空いていて、奥歯の噛み合わせが反対咬合とのことです。

目次

ムーシールドで反対咬合を改善後、ワイヤー矯正で治療した10代女性の症例(1)

STEP
歯並びの状態を客観的に観察します

術前の画像です。

浦安の歯医者 矯正歯科 あらかわ歯科医院 ムーシールド ワイヤー矯正

正面の画像です。臼歯で噛んでいるのに前歯が噛んでいない「開咬(かいこう)」と呼ばれる状態です。

また、臼歯の噛み合わせも正しく噛めていない状態で、「反対咬合」になっています。
上下の前歯(永久歯)の「切端(せったん)」と呼ばれる先端がギザギザな状態です。これは「切縁結節」と専門用語で呼ばれている形態です。生えたての永久歯に見られる正常なものですが、通常は咀嚼により擦り減ってしまい直ぐに見られなくなります。

開咬により前歯が噛めていない状態の時に、いつまでも残っています。
前歯で咀嚼出来ていない証明でもあります。

通常、歯並びは内側から舌の圧力により内側から押し拡げられます。
舌の圧力が上顎に正しく伝わっておらず、このような歯並びになっています。

浦安の歯医者 矯正歯科 あらかわ歯科医院 ムーシールド ワイヤー矯正

上顎の状態です。左右の中切歯と6歳臼歯以外はまだ乳歯です。
この画像だけで診ると、側切歯が生えるスペースは問題なさそうですし、それ以外の残りの乳歯が永久歯に生え変わる時のスペース不足は起きない状態です。

浦安の歯医者 矯正歯科 あらかわ歯科医院 ムーシールド ワイヤー矯正

下顎の状態です。4本の前歯と6歳臼歯が永久歯で、乳歯は側方歯と呼ばれる乳犬歯と乳臼歯が残っている状態です。

永久歯の4本の前歯が綺麗に並んでいれば問題ないのですが、スペースが不足していて重なっています。
軽度ではありますが「叢生(そうせい)」とか「乱杭歯(らんぐいば)」と呼ばれる状態です。

STEP
患者さまの希望している治療方法をお伺いします

この段階で、希望の治療方法を聞き取りするのですが、初診時の年齢が6歳4ヶ月なので、保護者であるご両親から聞き取りをします。

咀嚼できていないことが原因なのか、食事を残すことが多いそうです。
また、前歯が空いていて下顎は左側に偏位しているため、写真撮影時に顔が曲がって見えることが気になるとのことです。《まずは曲がって見える状態の改善と咀嚼できる状態にしてあげたい》というのがご希望です。

これらを改善させるための治療方法であれば、具体的な治療方法はこちらに任せるとのことでした。

ただし顎を切って手術をする「外科矯正」は何としても避けたいというご希望がありました。

STEP
資料を収集して分析、治療方針と装置の提案・相談
浦安の歯医者 矯正歯科 あらかわ歯科医院 ムーシールド ワイヤー矯正

未萌出(まだ生えてきていない)永久歯がレントゲン上ではありますが、歯自体が大きい可能性があります。「Step」での画像の通り、上顎が十分な顎の大きさでないのは勿論ですが、このままだと下顎も残りの永久歯が生えてくるスペースは十分ではありません。

上顎は下顎に対して著しく狭い「狭窄歯列(きょうさくしれつ)」と呼ばれる状態です。また奥歯の噛み込みがずれている「咀嚼機能不全」も起こしています。

「開咬(かいこう)」と「狭窄歯列(きょうさくしれつ)」は、舌の突出癖が原因で起きています。舌の不良習癖を改善する必要があるのと、舌の突出癖を逆利用して改善させたいところです。

本当は上下顎とも拡大してスペースを確保したいところですが、経験上、奥歯の噛み込みのずれは全く改善されません。

分析した上での治療方針は、

  • 「ムーシールド」により上顎全体を拡大。
  • ムーシールドによる拡大で奥歯の噛み合わせが早期に改善出来たら、上下顎とも拡大。

まず、この2点を直近の目標とし、治療の達成状態と残りの乳歯の生え替わりを鑑みてその先の治療をどうするか考えていくこととしました。

STEP
患者さまの希望を汲んで治療方針の修正と装置について相談

ムーシールドによる上顎全体の拡大は、ご両親の希望にある下顎の左側偏位と咀嚼できる状態への改善ができるため、まずはこちらの装置での治療開始を提案して同意をいただきました。

改善後どうするかについては、装着開始後、どれくらいの期間で改善出来るのかにより、様々な選択肢があることを説明、その段階であらためて相談して決めていくことで同意を得ました。

「Step」で考えた治療方針そのままで治療を開始することとなりました。

STEP
ムーシールドで上顎全体の拡大を開始
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今回選択したムーシールドを装着した画像です。

臼歯部は頬粘膜、前歯部では口唇粘膜による圧力を排除し、舌圧で内側から臼歯部及び前歯部の拡大効果だけでなく、上顎全体の成長促進効果を期待して装着します。

浦安の歯医者 矯正歯科 あらかわ歯科医院 ムーシールド ワイヤー矯正

ムーシールドがどのように装着されているかのイラスト画像です。

赤:シールド部

黄:スプリント部

青:挙上部(きょじょうぶ)

今回のムーシールドは青色のレジンで製作しました。

イラスト画像の赤色の部分が、装着している画像の青で見えているところになります。この部分で頬粘膜や口唇粘膜の筋肉による圧力を排除しています。

そして下顎に舌圧がかからないような構造になっていて、舌を突き出すと持ち上がり(「挙上(きょじょう)」すると専門用語で言います)、舌圧が上顎に加わるようになっています(イラストの青色部分で、ここは装着画像でも写せません)。

ムーシールドの装着方法

下記の順番で装着します。

1.頬粘膜・口唇粘膜を排除する部位(シールド部)を上にして口の中に入れる。

2.「スプリント部(装置を噛むところ)」と呼ばれる箇所に噛む位置の目安となるポジショニングのガイドがあり、そのガイドに沿って装置を噛んで固定する。

3.「2.」の状態で口唇を閉じる。

4.閉じた時に装置がずれないように気を付ける。

5.上記の2~4の時に口が開いてしまわないよう、力を入れて閉じる。

いつ装着するの?

「就寝時」と「起きている時(日中)に1時間」装着します。

就寝時だけでの装着では不充分です。装着の仕方を正しく覚える必要があり、就寝時に正しい装着方法で装置を入れるのは不可能なためです。

そのため必ず起きている時の装着からお願いしています。

就寝時の装着は、無意識下で舌を突き出す力が下顎に作用しないよう、予防的な効果を期待して装着します。

日中の装着は上顎への刺激を加え、拡大効果を期待します。

装着開始当初は、1時間の装着も大変な状態になる場合が大半です。舌や口唇が正しくポジショニングされていない、咀嚼時の機能不全が原因で歯並びが悪くなっているため、装置を入れることは、舌や口唇が正しい位置を覚えるまでは快適でない状態であるためです。

ムーシールドには既製品がありますが・・・

ムーシールドは既製品が歯科医院向けに製作されているのですが、他の装置と同じく、顎の大きさに合わせたオーダーメイドがお勧めです。

「どの位置で装置を入れたら良いのか?」が既製品ではわかりにくい状態で、それに対してオーダーメイドの場合、ポジショニングしやすく設計されています。

装着に関する「よくある質問」です。

Q:日中の装着時に唾液が溜まってしまいヨダレが垂れてしまい、装置を数分しか入れることができません。どうしたら良いでしょうか?

A:装置を入れたまま唾液を飲み込むことにトライしましょう。嚥下(えんげ)の訓練になります。

Q:装置を入れながらお喋りをしてしまいます。これでも効果はあるのでしょうか?

A:入れてないよりはマシですが、十分な効果があるとは言い難いです。「日中の装着」を短く区切って装着することをお勧めします。例えば、次のような装着方法です。

・3分間集中して(喋らず)装着し、1分間休憩する。休憩時間は厳密に守り、また3分間集中して装着する。これをトータル1時間になるよう繰り返し装着する。この「3分装着1分休憩」は「5分装着3分休憩」でも構わないです。

Q:装置を入れて毎晩寝るのですが、起床時には必ず外しています。このような状況でも就寝時に装着する意味はありますか?

A:意味はあります。日中の装着方法や装着時間を遵守できていれば、必ず起床時まで入れられるようになります。めげずに続けて下さい。

STEP
ムーシールド装着を開始して2年経過の状態

装着を開始して2年経過しました。

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右上犬歯が生えてくるスペースを確保することが出来ず、一般的には「八重歯(やえば)」、専門用語では「低位唇側転位(ていいしんそくてんい)」と呼ばれる状態で生えてきました。

当初の改善目標であった、奥歯(臼歯)の噛み合わせは完全には改善されていませんが、拡大効果は得られていて、奥歯の反対咬合は改善が見られています。

前歯の開咬は改善傾向を示しています。

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第2乳臼歯を除いて全て永久歯になりました。

初診時のレントゲン画像で右上側切歯はかなり右側に寄っていて、この歯が生えてくる時に乳側切歯と乳犬歯が抜けてしまった状態です。残念ながらスペース不足は改善されず、舌の内側からの圧力でもう少し拡大効果を得たかった状態です。

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下顎も第2乳臼歯以外は全て永久歯になりました。前歯に「叢生(そうせい)」と専門用語で呼ばれる重なりが若干残っています。上顎と比較して問題は少ないように見えますが、前歯が完全に並んでいる状態ではないので、スペース不足はこちらも残ってしまっている状態です。

STEP
ここまでの総括

この患者さまはムーシールドの装着を2年続けました。にも関わらず、ご両親が希望されている治療結果は得られませんでした。

一番の理由は、ムーシールドをルールを守ってきちんと入れてもらえなかったことです。
治療を開始してから半年以上、装置をほとんど入れないまま経過していました。

その後は頑張って入れていた時期も当然あるのですが、頑張って入れたことを検診で確認すると、その翌月は入れていない状態になり、その繰り返しでした。

また装着ルールを守って頑張ってもらうことで装置は1年前後で劣化、作り直しが必要になるのですが、今回は2年間同じ装置を入れていました。

ご両親が共働きということもあり、装置の管理を含めた治療全般を本人に任せきりでした。
小児矯正の場合、保護者の方が装置を入れているかを常に声掛けする必要があります。

STEP
今後の治療について

前歯も臼歯も噛み合わせの問題は残っているのですが、それよりも八重歯の改善が第1優先になりました。

このタイミングでブラケット装置によるワイヤー矯正を行うことのメリットは、小臼歯の非抜歯による改善の可能性が残ります。一方で乳歯が残っているので、ワイヤーを装着しながら生え替わりを待つ必要があること、第2大臼歯が生えてくるのを待つ場合、矯正治療終了までワイヤーをかなりの年数装着しないといけないのか、わからないことが挙げられます。

ご両親は治療を続けるか否かを検討したいとのことで説明の日は終了。
結局再開することになったのですが、その間2ヶ月間隔が開きました。

この続きは、「ブログ【ムーシールドで反対咬合を改善させた後、ワイヤー矯正で治療した10代女性の症例 (2)】で後日ご覧いただけます。

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